縁側と線香花火
両親は、学生結婚だった。
医学部のインターンと、女子大4年生である。
結婚式は、時の総理大臣経験者まで出席したそうだから、両家総力を上げたのだろう。
両家長男と長女の結婚だ。
結婚式は、皇居前の東京會舘だったと聞く。
新婚の家は、お手伝いさんのいる、古い大きな日本家屋。
鉄の門の上には、大きな松の木の枝ぶりがかかっていた。
はっきり言って、恵まれていたのである。
でも、父は、私のミルク代は、麻雀で稼いだと言っていた。
その長男の泰成君の恵まれていたのは、お年玉が多かった事だ。
今の子には、わからないだろう。
新年には、親戚が集まり、子供は、1年分の小遣いをお年玉として貰った。
両家の長男は、兄弟の何倍も貰った。
泰成君の人生で、長男に生まれて良かったと思えたのは、その時くらいだけれども。
なぜならば、その後の家業の借金を一重に背負ったのも、長男だけだったからだ。
お金の因果は回る。
泰成君は、お金においては、その後は、天国と地獄を巡る人生となる。
今だにだが。
夏のお盆の頃を迎えるようになると、花火を思い出す。
でも、その花火は、隅田川の花火でも、東京湾の花火でもない。
自宅の池と、松の木と柘榴の木のある庭の縁側で観る花火だ。
それも、線香花火。
打ち上げ花火は庭では、させてもらえなかった。
でも、その線香花火は、幻想的で美しかった。
パイプの絵の大きなマッチ箱も記憶に残っている。
ロウソクも。
夕方、マッチとロウソクを、たばこ屋さんに、走って買いに行った事も思い出した。
闇と炎。
子供にとって、美の初体験だったと気がついた。
先日、和紙で作った、特別な線香花火を頂いた。
老人の火遊びは、危険だと思い、小さな子供のいる職員に差し上げた。
赤ん坊のその子の目には、線香花火はどのように映るだろうか。
人生、最初の花火として、家族の思い出になったら嬉しい。
1人の花火は、寂しい。
そんな事はないかな、お父さん、お母さん。
涙が止まらない。
パルスオキシメーター 98・98・98
体温36.0 血糖165
父のパイプとマッチ 蝉の声が聞こえる 代表 湖山 泰成